取材

自動車部品メーカーが、なぜ、介護ロボット開発

電動パワステでは世界シェアNO.1。コア技術で、新規事業分野開拓

「我々が強みをもっている電動パワーステアリング(EPS)の技術で、少子高齢化、労働人口不足、労働災害の増加といった社会課題を解決し、社会貢献できるのではないかと考えました」

取材に応じてくれたのは、イノベーション推進部アクティブライフ事業室第一グループ、グループ長の太田浩充氏だ。まったく意識したことがなかったが、乗用車のパワステはここ20年で油圧から電動が主流になっているそうだ。ジェイテクトは最初に電動パワステの開発・量産に成功、同社のパンフレットによると搭載車の3台に1台が同社製品で、ずっと世界シェアナンバーワン。知られざる超優良企業だ。

電動パワステでは、人のハンドルの操舵力をトルクセンサが検知し、モーターを制御して、人の操舵力に応じたアシスト力を与えている。そのアシスト技術を自動車以外の分野に活用し、次の成長の柱に育てる。それが、太田氏のグループに託されたミッションだ。まず、2018年8月に、製造業や流通業向けのパワーアシストスーツ「J-PAS(ジェイパス)」の販売を開始。「J-PAS」の出力を落として軽量化したのが第2弾の「J-PAS LUMBUS(ランバス)」。介護用の「J-PAS fleairy(フレアリー)」はシリーズ第3弾。

「人に接する介護作業では、金属フレームは痛くて不安全」「邪魔」。安全重視で、フレームレスの衣服型に

J-PAS、J-PAS LUMBUSとの一番の違いは、一目瞭然。金属フレームがないことだ。フレアリーは衣服型で、メカ感はゼロ。なぜ、なのだろうか。

※左が「J-PAS fleairy(フレアリー)」、右がJ-PAS LUMBUS(ランバス)。

「安全を優先した結果です。フレームがあると、高齢者にぶつかって危ない、狭い場所で動けない、使っていない時には重くて邪魔。そういう意見が多かった。プロトタイプ機では、固定のため胸ベルトをバックルでとめるようにしていましたが、ちょうど移乗の時にあたって危ないといわれたので、それも取り除いた。体にあたる部分は全て柔らかな布になっています。高齢者がびっくりするような目立つデザインではなくて、できるだけ目立たないのがいいということで、今のかたちに落ち着きました」

背中に背負う小さなプラスチック製のボックスが心臓部。加速度センサーが上半身の傾きやそのスピードを検知して、必要な分だけ、背中のベルトを巻きあげ、張力=アシスト力がそのときの作業姿勢に対して最適になるようにモーターをコントロールし、腰への負担を減らしている。ゴムの伸び縮みとは違う不思議な感覚だ。

中腰姿勢のサポートに特化

J-PAS、J-PAS LUMBUSでは、センサーは2カ所。股関節の角度もセンシングしていて、膝を曲げて腰を落とす姿勢をみて、重いものを持ち上げる時のアシストをしている。

「介護現場でモニタリングしてみると、膝を曲げて床にかがむのは、車いすに座っている方に対して話しかけたり、靴を直したりする時で、アシストはいらない。重いものを床から持ち上げる場面はあまりなく、ベッド周りでのシーツ交換やおむつ交換など中腰作業が負担になっていることがわかった。中腰姿勢のサポートに機能を絞ったことで価格を抑えることにもつながりました」

では、アシスト機能の完成度はどうだろうか。

「一人ひとり体格や感覚が違って、同じ設定でも人によって評価が分かれるため、どこまでいけば完成と言えるか難しい。今は、スマホから自分にあったアシスト力に調整できるようにしていますが、運転するときにパワステがあることを意識しないように、装着していることを忘れるくらい自然なのに、身体が楽というのが理想。そこを目指して、改良を続けていくつもりです」

介護だけに特化して開発されているのが、他のパワーアシストスーツにないJ-PAS fleairyの特徴でもある。フレームありのタイプに納得できなかった人にこそまず使ってみて欲しい。