特に目を引いたのは、最新のテクノロジーを応用して介護者の負担を軽減する介護ロボットの分野だ。移乗支援や見守り、入浴支援など、ここ数年新製品の開発が相次ぎ、介護現場の関心は高い。センサーによる見守りロボットは介護ソフトと連動することで使い方は多様化。少ない人数で夜間の見守りができ、導入する施設は増えている。
厚生労働省によると、社会福祉施設で発生した休業4日以上の労災は約4割が「動作の反動・無理な動作」で起きており、介助作業中がその約8割を占める。中でもベッド上での介助作業とベッド移乗作業が約半数と多く、課題となっている。
腰痛など介護職の悩みを解決する介護ロボットも開発が進んでおり、現場からの期待は大きい。今年3月に発売されたパワーアシストスーツ「J-PAS fleairy(フレアリー)」(ジェイテクト)のブースでは、体験を希望する人が通路まで並んでいた。H.C.R.初出展なので、どのようなものか情報を仕入れておきたいという人が多いのだろう。
フレアリーは布製の衣服型パワーアシストスーツで従来のものと違って柔らかくて軽いというのが第一印象。小さなリュックを背負うように本体を身に付け、腰ベルトと膝パッドを止めれば簡単に装着できる。体の動きをセンサーが感知して背中のベルトを巻き上げ、ベッド上で介護する時に腰に負担がかからないように設計されている。開発したジェイテクトはトヨタグループの主要な自動車部品メーカーで、フレアリーには自動車用パワーステアリング技術で培ったモーター制御技術を応用している。
「軽くて動きやすい。中腰姿勢でも体が安定しますね」と話すのは、介護施設の同僚と訪れていた女性。フレアリーを付けて、手慣れた動作でベッド上の人形の体位を変えながらサポートされる感触を確かめ、「不思議な感覚」「しゃがんだり立ったりしやすい」と感想を話し合っていた。 施設関係者だけでなく、障がいのある子供を持つ両親が、「柔らかくて動きやすそうなので、これなら自宅でのケアに使えるのでは」と、立ち寄るケースもあった。自宅介護でうまく活用できれば助かる人は多いだろう。コロナ禍にあって、本体部分を外して装具を洗濯できるのもポイントだ。
「これを着用したからといってスーパーマンになれるわけではありませんが、おむつ交換などベッド上で介護する時に中腰姿勢が楽だと施設の方は驚かれます」と、メーカーの担当者。抱き起しや移乗作業にも力を発揮するという。では実際に介護現場での使い勝手はどうなのかという声を受けて、施設での試用にも応じている。「現場の感想や声をいただくことは、それがたとえ耳に痛いことであってもより良い製品づくりにつながりますのでありがたい」と、意欲的だ。
今回のH.C.R.では入浴支援ロボットも様々に進化した機器が登場していた。例えば、シャワーポッド「アラエル」(酒井医療)は、車いすのままドームに入ってきれいに体が洗えるコンパクトな入浴装置。狭い浴室にも設置でき、入浴介助の負担を減らし節水効果で光熱費も削減できるという。介護される側、する側双方のニーズに応えた製品といえる。
障がいのある人のQOLを高める福祉機器としては、足の不自由な人の行動範囲を広げる車の手動運転装置に注目が集まっていた。手動運転装置付車の「MAZDA MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(SeDV)」では、車好きの人たちが実際にハンドル操作を試しながら情報収集をしていた。福祉機器は人生に夢をもたらしてくれるものであると実感する。
今回は、新たにアルコール除菌に強い車いすや車いすのランドリー機器など、コロナ対応の製品も出展されていた。非接触や除菌など新しい生活様式は福祉機器にも変化をもたらす。2年ぶりのリアル展示とあってどのブースも熱気があふれていた今年のH.C.R。コロナ禍を乗り越え、人に寄り添うテクノロジーによって福祉の現場に明るい新年が訪れますように。